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2007.11.05

映画祭シーズン折り返し

きのうきょうと、NHK アジア・フィルム・フェスティバルで『京義線』、『ガレージ』、『予感』を、浅草で『イラク-狼の谷-』を見てきました。

毎年同じなのかどうか例年は気にしていないのでわかりませんが、今回のアジア・フィルム・フェスティバルのキャッチは「映画で体感するアジアの青春 ラブストーリー×5」というもので、青春もラブストーリーも映画にはつきものとは知りながら、このキャッチのおかけで、このイベントへ出かけるのに二の足を踏んだりしていたのですが、さすがはお上品なNHK様というか何というか、「ラブストーリー」と言うにはおこがましい「淡さ」「苦さ」のラブストーリーで、意外と好感を持ちましたです。


韓国映画『京義線』は好きなタイプの作品。――心に傷を抱えた男女が偶然出会う。けれども、出会うだけであって、その男女が恋人同士になっていく話ではない。映画自体は、出会って終わる。「ラブストーリー」は出会った男女のそれぞれの心の中に、抱えた傷と深く関連する形で、別個の相手との思い出として存在する。出会った2人の恋愛劇に発展しないことで、男女それぞれの過去の出来事、淡々とした日々の小さな幸せと、孤独と、苦しみが浮かび上がる――基本的には、ある一夜の話である。傑作とは呼べないし、佳作と呼ぶにも後一歩という気がしなくもないが、登場人物たちの重苦しい日々をさんざん見せながらも、さらっとした本筋が、最近の韓国映画にない爽やかな後味を残してくれて、心の片隅で時折思い起こしたい愛すべき映画になっている。大々的には無理だろうが、公開できる作品だと思う。

上映後に、監督とヒロインが登場しての質疑応答。主人公の男女が偶然出会うのは、京義線という、ソウルから北朝鮮側に至る鉄道の、韓国側の終点「臨津江」駅(実際にはその次の「都羅山」が韓国側の終点だが、民間人は行けないのだそう)で、2人とも、最終列車で寝過ごしてしまい終点で降ろされる。監督によると、寝過ごした理由は、どちらも酒を飲んでいたからだとのこと。世の中には、浮かれた酒呑みばかりではない、こんなに辛い酔っばらいもいるのである。無論、この路線を舞台としたからには、そこかしこに南北統一への思いも込められている。脚本は監督の手によるものだが、映画のラストで、ヒロインが作家として書いた同名小説として登場する。よくあるパターン。でも一瞬、本当に原作は小説なのではないかと思った。こんな小説があってもいいな、あったら読みたいなと……。

インドネシアの『ガレージ』は、ボーカルの少女と、男の子2人の「ガレージ」というバンドの活動を中心に据えたバンド物の青春映画。少女の母は、妻子ある男との恋愛によって未婚で彼女を産み、勘当状態で実家を出て苦労して彼女を育てた。世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシアという国では、それは大変なことに違いない。少女自身も、小さい頃からそのことで差別され、いじめられれながら成長してきたし、成長した今でも、周囲に知られれば、生活するのさえ困難なほどの差別にさらされることに怯えながら暮らしている。でも、無慈悲な社会への怒りと悲しみを乗せた少女のボーカルが、聴く者の胸を打つ。かなえられない愛や、恋しい人へのあふれる想いを歌うそのメロディは、アジア圏お得意のバラードではなく、ハードロック。シャウトというよりは泣きに近いファルセット。メンバーは皆若いので、ドロドロとしたバンドの人間関係なんてところには至らず、互いに青春特有の頭でっかちな悩みを抱えてすれ違い、また集うという他愛ないバンド物だが、見辛いほどに暗い画面の多用や美術、ヒロインの性格設定などに、東南アジアの映画らしからぬ新鮮さを感じた。

最も見たかった『予感』というイラン映画は、東京国際映画祭で見たイラン映画『数日後』と同じく不倫が大きなファクター。『数日後』は妻子ある男性と恋愛関係にある女性の心理をじっくりと追った映画だったが、『予感』の方は、若い独身女性と恋に落ちて浮かれる夫と、死産による心の傷が癒えぬまま冷えていく夫婦関係に悩む妻を描いている。こちらは『ガレージ』とは違い、大人の泥沼的人間関係がこれでもかと描かれているが、登場人物たちのリアルな末路には何か寓意的なものも感じられる。独身女性を見つめて、幽かに微笑む妻の表情も印象的だ。中東の映画を見てると、どこか哲学的、形而上的な感じがするのは、台詞はもとより、ちょっと車を飛ばすと荒涼たる砂漠の風景が出現するのも一因かもしれない。砂だらけの、何もない景色の中にたたずむ人を見たら、人間とは何か、人生とは何か、なんて考えてしまうのも人間である。


『イラク-狼の谷-』は、悪役の米軍のリアリティのなさこそが、逆に、ハリウッド映画における「テロリスト」「イスラム過激派」が実はどれだけいい加減なステレオタイプか、ということを表している気がして、とても面白かったです。

東京国際映画祭が終わって感想を書ききらぬうちに、期間中に午後半休を2回もとってしまったツケか、怒涛の残業ウィークに入り、それが終わったら東京フィルメックスのチケット発売で慌しいことしきりです。フィルメックスは、前売りを買わないとやばそうなチケットだけは辛うじて入手しました。ほかは近くなってから準備すれば大丈夫だと、たかをくくってはおりますが……。

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