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2007.10.23

わがままな客

22日、やっと岩波文庫『ペドロ・パラモ』を買う。

初日からきょうまで、TIFF2007のアジアの風作品を10本(&コンペ1本)を見たけれど、どの作品もヒューマンな内容で見応えがあり、ハズレなしという感想。若手監督の新作を積極的に持ってきているのに、内容的には、年齢層の高いのが特徴の日本のアジア映画ファンのまさにストライクゾーンという感じの作品群で、となると前回までのような、「なんじゃこりゃ?」的な尖った作品がないのが、ちょっと寂しく思えてきたりして……。まあ「何じゃこりゃ?」であっても「何だか惹かれる、何だか凄い」と思わせるものもあったし、ただただ「何じゃこりゃ?」としか感じられない作品もあったのだけれども……。それでも、ね。 

のんきでわがままな「観客」である。

そんなことを言いながら、今のところ最も気に入ったのは、インドの女性映画『運命の糸』である。インドというと、人がごったがえす都市の風景をイメージしがちかと思うが、この映画ではインド北部の山岳地方の風景や、北西部の砂漠の風景が本当に美しい。運命に操られる男女のメロドラマ、あるいは夫婦の情愛物と思いきや、女性の自立を(というか、本当は「女性」にとってだけでなく、人間が自分の人生を選び取って生きることの困難とその意義を)描いている。伝統的な生き方を選ぶことは正しく立派なことのように思えるが、出来合いのレールの上を安易に流されて生きているだけだ。すべてを自分で決めること。決めたことには責任を負うこと。そうして、本当の自分の人生を生きよう、と訴える。娯楽作品ではなし、物語の展開や顛末は想像に難くない。だが、さすがインド映画というのか、きっちり笑わせ、しっかり泣かせて、爽快に終わる。つまり「見せる」。女優陣も魅力的だ。でも、自分がこれまでに見た映画の中で、最も厳しいことを言っている映画の1つだと思う。

フィリピン映画『レカドス食堂』も、とても可愛い作品で、料理をモチーフにした3代の女性の年代記である。監督は26歳という若さの男性である上に、映画の総制作費は200万円だそうだ。が、高名な脚本家に師事する監督だけあって、若きヒロインの恋、3代の女性の生き様といった盛り沢山な内容を、フィリピンの家庭料理を中心にコンパクトにまとめ上げていて見事だと感じた。低予算でありながら、主人公の女優陣はフィリピンでは有名な人たちばかりだそうで、脚本に思い入れてほとんど無償に近いギャラで出演してくれたとのこと。で、明るく可愛い作りの映画なのだが、後からしみじみ振り返ると、祖母・母・娘の営む「レカドス食堂」は、映画の中の回想シーンでのみ繁盛しているだけで、苦しい家計にあって「今」は1度も店を空けていないということに気付く。

こんな感動作が目白押しな「満腹」アジアの風の中で、唯一いつもどおり気を吐いてくれたのが、さすがのパン・ホーチョン作品『出エジプト記』だ。見終わった直後、パン・ホーチョンはますます高みに上ってしまったなあという感想を持った(でも、何だかわからぬ違和感もあった)。すごく下らないことを大真面目にやっている可笑しさは変わらない。ダイバーのエピソードやら、女性の陰謀といった主題は本当に下らない(が面白い)。なのに目いっぱい真面目に格調高く作られている。暗く静かな画面、未解決事件を追う警部、返還前の香港と今の香港、そしてダイバーのエピソードに表された警察の暗部なんてものが揃ってしまったものだから、「『殺人の追憶』か?」というほどの重厚さにまで手が届きそうになってしまった。下らなさと真面目さのギャップが大きいほど面白いのは笑いの基本なわけで、となると今回は格別に面白いはずである。大好きなパターンだ。なのにもう1つ何か満足できなかったのは、実は今、それは主演のサイモン・ヤムのせいだと信じている(笑)。映画中で女性とのラブシーンなどもあり、それはサイモン・ヤムだからこその信憑性なのかもしれないけれど(醜男じゃ「その展開、都合良すぎるよ」と思えてしまうもんね)、でも、サイモン・ヤムが婿殿状態で姑に馬鹿にされようが、ジャージでカラオケを歌おうが何をしようが、情けなくないし、可笑しくもない。「かっこよくてセクシー」過ぎて「味」がない。監督が意識して配置したというスクリーンの中の巨大な建造物と同様、彼は無機物の1つなのだろうか、などとすら勘ぐってしまうほどの「つまらなさ」が、映画の中のサイモン・ヤムの周りに漂っていたと言ってしまっては、素人の癖に失礼過ぎると叱られるだろうか……。でもラストのしゃっくり、面白くなかったもん……(え?あれは面白さを出すためではない?)

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コメント

>寄る年波

ことしはワタクシも来ております。何せもう、目がどうしょうもない、かすんで、かすんで……。そして何カ月も続いていた腰痛が、いつのまにか治まったと思ったら、痛みが「転移」したかのごとく、脚(筋か?)が痛くて、映画館の座席に座っていても辛い。

とはいえ映画を見る自由も、身体が動かせる自由も今のところ得られているわけだから、幸せだと思わねばと……。いやぁ、こんなに早く「老後」が来るとは予想だにせず(泣)。

>「かっこよくてセクシー」過ぎて

『出エジプト記』のサイモン・ヤムについては、自分的には「味がない」「うまみ(人間的魅力)がない」の方に重きがあって、セクシー云々はマイナス評価をオブラートにくるむための「婉曲表現」だと思ってやってください。

私の方は、コリアン・シネマ・ウィークを除くと、TIFF本体で残るは5本です。『レカドス食堂』は本当は見られないはずだったのですが、エジプト映画をどうしても2本とも見たくて、そのためには平日(月曜日)に半日休みを取るしかなく、それでたまたまスケジュールに組み入れることができたのでした。

エジプト映画『ベスト・タイム』も、ドタバタコメディですが、若手女性監督の手による「女性が元気になる」映画でした。ヒロインの友人の妊婦さん(←彼女はアラブ映画祭で見た『ヤコービエン・ビルディング』の美しい主演女優)が夫の反対を振り払って、好き勝手に出歩く様が、とても生き生きとしていて楽しいです。

TIFF後半に向けて、diabloさんも残るチケット消化(「消化」なのか!?)のために、力を振り絞ってくださいませ。がんばりましょうというのもヘンですが、まあ、がんばりましょう。

石公さま~
へばっております、昨年とは違い体力勝負のTIFF日程では
無い筈なのに・・・寄る年波ってアレでしょうか?(泣笑)

『レカドス食堂』ご覧になったんですネ!スケジュールに泣いて
諦めたので、余計に羨ましいです。(ちょい嫉妬)

『出エジプト記』・・・う~ん、ますます日本公開が難しい人
になってしまった様な気がしてしまいました。(涙)

作品の持つ力はビスネスとはまた別物で、なんともな作品の
成績が良いと、何時も映画好きとしては複雑な気持ちにさせ
られます。

>「かっこよくてセクシー」過ぎて

カラオケシーンでは、新橋に居そ~なただのオヤジにしか
見えませんでした。(鬼爆)

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