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2006.11.13

奇策としてのファンタジー

ハリーポッターも指輪物語も(テレビ放映を見たけれど)、全然面白くないのにねぇ……。ファンタジーは王道なんだろうかねぇ……。

『グエムル -漢江の怪物-』に続き、必ず見ようと思っているいくつかの韓国映画のうちのやっと1つ、『トンマッコルへようこそ』を見ることができた。

チャン・ジン脚本の舞台の映画化である。チャン・ジン作品は大好きで、韓国で大ヒットしたこともあり、大いに期待していたのだが、自分にはちょっぴり退屈だった。もちろん、骨格はしっかりしたものなので、見てがっかりというようなものでは決してない。内容は、平和な村トンマッコルに、戦場から迷い込んできた連合軍兵士と国民軍兵士らが巻き起こす騒動記で、戦争という非人間的な緊張下に置かれる人間の不自然さ滑稽さと悲惨が、緊張などという概念のないのんびりした村人たちとの対比の中で浮かび上がってくる作品である。

世間では、宮崎アニメとの類似点やら似ていない部分やらが取り沙汰されているが、自分は宮崎アニメは1本しか見たことがない(し、宮崎アニメが好きではない)のでよくわからない。

過去に自ら何度もメガホンを取っているチャン・ジンが、今回は制作(&脚本)に回ったことに関して本人は、(韓国で)大ヒットしたのは自分が監督しなかったからだと、冗談か本気か知らないが言っているという。自分が退屈と感じたのもまさにそのあたりで、チャン・ジンが自分でつくった作品のチープさやアイロニカルなユーモアが抜け、「面白い」部分は大いに残っているものの、真っ向勝負のスタンダードな映画になっていると思う。誰にでも、素直に心に入ってくるからこそ、大ヒットしたのだろうが、「照れ」抜きで大真面目にファンタジーをやれてしまうところが、自分には「ちょっぴり退屈」だったのだ。

ただ、ファンタジーといっても、それは村が架空である、村人たちの様子が天上的な平和さであるというだけで、そこに放り込まれる兵士たちは、思い切りリアルに描かれている。これもどこかのレビューで書かれていたことで、自分も全く同感だったのだか、兵士たちの物語だけを切り取ると、状況的にはかなり『JSA』に似ている。状況だけではない。時代設定こそ違うものの、国家的対立の下に置かれた個々の兵士たちの緊迫感のポテンシャルは同じだ。

南北の対立を真正面から描いたもの、背景として使用しているものが韓国映画には沢山ある。当たり前だ。それは過去ではなく、現状なのだから……。でも、そのほとんどは映画としてはシリアスに描かれている。この作品の価値は、今も続くシビアな南北分断(とそこからくる緊張)という現実を、ファンタジーというとんでもない形で見事に描いてみせたところだと思う。

日本が知らぬふりをして良いはずのない朝鮮半島の現状は、だが今の我々には、実感という形でも、共感としいう形でも、なかなかピンと来ず、どんなタイプの「お隣」の映画を見ようとも、街並みや出てくる人の顔がやや似ているというだけで、それはやはり「遠い場所」の出来事だったりする。そんな日本人なら、この異様で新鮮なファンタジーを見ても、「宮崎アニメ」程度あるいは、「宮崎アニメに似たような何か」程度しか受け取れるものがないのは当然だろう(→「ちょっぴり退屈」と感じた自分も同じ)。「遠い国」の「遠い夢物語」に過ぎないのだから。

多くの人々が死んでいる。今でも様々な困難があり、不幸がある。そういう今を抱える人々にとって、こんな変な映画はなかったんじゃないか? こんな「ふざけた映画」は見たこともなかったんじゃないか? だから、面白かったんじゃないか? 賛否両論はあったというが、みんなびっくりして見にいったんじゃないか? 感動した人も、憤慨した人もいただろうが……。朝鮮半島の現実を、「オレならこうやるね」と奇策"ファンタジー"で描き出し成功させた「作者」チャン・ジンの少し得意気な微笑みが、見えるような気がするのだ。

最後の雪山の爆撃シーンの痛さと悲しさと美しさ、村人の見上げる「花火」、そして「天国」のラストシーンは、退屈なんかじゃなく、素晴らしかった。やっぱり、シン・ハギュンは良いよね(笑)。

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