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2006.11.09

遭遇報告

「近況」(右サイドバー)に書いていたのだけれど、思い出すまま書いていたら長くなってしまったので、中央に移動。

マイケル・カニンガムの講演会には開演後40分遅れで到着。半分諦めて行ってみたけれど、入場させてくれて感謝。でも、前半の本人の講演部分は残り15~20分程度しか聞けなかった。

作家の印象は、あの、いつも本の扉に印刷されている結構濃い目の写真と全く違い、とても柔らかで知的な雰囲気で、大学の先生のよう(実際にどこかで教鞭はとっているのか、作家専業なのかは自分には不明。どこかで教えているという情報は見たことはないが……)。席が遠かったので顔までは余りよく見えなかったが、落ち着いた年齢なりの全体的な印象とは裏腹に、表情などは、非常に若々しいように思えた。声も穏やで優しい。顔が似ているわけではないけれども、ダラス・ロバーツのジョナサンが年齢を重ねて精神状態が安定した……みたい(笑)な感じだ。

作家観や作品に対する考え方は、自分が思っていたころに近かったので、とても納得がいった。『星々の生まれるところ』で、ホイットマンの詩句を登場人物に語らせた意図というのが、とても面白かった(講演会がらみの、この辺の話については、核心に迫れるかどうか全く自信はないけれど、本の感想と合わせて改めてきちんと書きたいと思う)。

ナディア人の外見をトカゲにしたのは、「エイリアン」を登場させたかったことと、3章(「美しさのような」)を執筆していたイタリアの投宿先にトカゲがいて、書きながら日々関心を持って観察していたからだと、本当か嘘かわからないが、楽しそうに語っていた。

作品が3部構成だったり、主要登場人物が3人だったりするのは、3が好きだから。3は2よりも広がりがあって落ち着きが良い、というようなことを言っていた。11も好きだと……(笑)。

対談相手の(というよりもインタビュアーに近い感じだった)山本容子氏も、『星々……』について、読み返すと「初めて読むような」素晴らしい輝きを放っている部分に出会うと言っていたが、それは彼の過去の作品で、自分も都度感じてきたこと。ゴツゴツと消化しにくく、けれどしなやかな今度のこの小説は、その「ゴツゴツ」故に、もしかしたら読めば読むほど、多様で、鮮やかな展望をもらたしてくれるのではないかなと、そんな感じはしている。

『星々……』の文体については、3つの章でかなり意識して変えているのだそうで、1章は話の舞台(ホイットマンの生きた産業革命直後)に合わせた古い言葉を使い、2章はいわゆる探偵物の文体で、3章は飾らない平易な言葉でストレートに書いたそうだ。そのあたりを意識して読み返してみると、また面白いだろう。2章のミステリのような文体というのは、邦訳からも感じられた(もちろん、内容がミステリあるいはサスペンス系の話なので、文体以前のことなのかもしれないが……)。

文章を書く上で、カニンガムの師にあたる人から教えられた方法は、書いた文章を読み直し1行1行評価する、というやり方だそうだ。評価はAとB。自分で良く書けたと思うA評価の部文は全て削除し、「悪くない」程度のBの方を残せと……。Aの文は、物語にとっては、これみよがしな作家の自信過剰・自意識過剰部分でしかない。文章はあくまでも物語のしもべでなければならない、と……。でも、詩を愛し、本当は詩人になりたかったというカニンガムの小説の魅力は、単なる物語のしもべではなく、もしかしたら平凡すぎる物語に輝きを与える言葉の連なりとしての文章に寄るところは大きいと思う。もちろんそれは、「つくりすぎ」た言葉を削ぎ落とし磨き上げるからこそ生まれる「輝き」なのかもしれない。

9日に東大で行われる講演のタイトルでもわかるとおり、カニンガムは「過去のどんな偉大な文明も滅びたように、現在のアメリカの繁栄が先々まで続くことは有り得ない」と言う。9・11以降のアメリカ(を中心とした世界)は確かに変わったけれども、体制とか文明とか国というものは、時の流れの中で栄え滅びゆくものであり、そして個である人々は日々を生き、常に前(未来)に向かって進んでいることに変わりはないと……。

【追記】
傍流点景さん(←「さん」付けというのも何だか可笑しいが……)のレポートと合わせると、もう少し良く、当日の雰囲気が伝わるかと思いますのでリンクさせていただきます。
蜥蜴の紳士

『星々の生まれるところ』のショート・インタビュー(英語)→"Man of THE HOURS"

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コメント

shitoさん、たびたびどうも。

ダラス・ロバーツもすっかりお気に入りになりました。『この世の果ての家』の朗読CDも、当初はコリン・ファレルオンリーで狂喜していましたが、しばらくご無沙汰だった今聴いたら、ダラス・ロバーツも嬉しいに違いありません。そろそろまた取り出して聴いてみようかと思っています。

あの、どこか夢見るような「とろん」とした声もまた、カニンガムの雰囲気に近いものがあります。

石公さん、おはようございます。
コチラのgooからTB出来なかったので(苦笑)度々リンク張って頂きありがとうございます~。私の方は、石公さんと同じものを聞いたとは思えないアラさなうえミーハー^^;;な内容ですが、まあそれも含めて参加記念(?)ということで…

>ダラス・ロバーツのジョナサンが年齢を重ねて精神状態が安定した……みたい(笑)な感じ

私もコレ感じました。ダラス・ロバーツが、ジョナサンを演じる際にカニンガムの雰囲気・仕草等を参考にして取り入れたのかもしれないですね。

真紅さん、こんばんわ。書き込みありがとうございます。

東大では聴講者との質疑応答の時間もとるとのことでしたので、もうちょっと英語が何とかなるなら、ぜひ行ってみたかったです。

集英社主催の講演の第2部で登場された銅版画家の山本容子さんは、有名な方なのでもちろん存じ上げてはおりましたが、全く興味がありませんでしたし、何でこの方がカニンガムと対談するのだろうと思っていました。が、本番では、さすがにきっちり本を読み込まれていて、私自身が感じていたことと同様なことをおっしゃって、カニンガムに対して興味深い質問を投げかけたりしていたのですが、彼女の言葉や問いのニュアンスが通訳さんを通じてうまく伝わらなかったようで、もう1つかみ合わない部分がありました。

石公さま、こんにちは。
カニンガムの講演会、報告ありがとうございました。
今日の東大での講演はどんな感じだったのでしょうね?
しかし、柴田教授が司会で、だれでもフリーで(東大に!)入れるって凄いですね(笑)
石公さまの『星々の生まれるところ』レビュー楽しみにしておりますね。
私は読み終わった勢いで書いたので・・。ちょっと反省。
ではでは、また来ますね。

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