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2006.06.07

霧暗

プルートで朝食を』(ニール・ジョーダン監督)が今週公開の、キリアン・マーフィーが出演する2006年カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞作『麦の穂を揺らす風(仮題)』(ケン・ローチ監督/原題:The Wind That Shakes the Barley)は、調べてみたらもう日本公開(今秋)が決まっていた。(関係ないけれど、『グエムル』(ポン・ジュノ監督)も好評のようだ。大傑作と言われる前作によって世間が注視する中で、期待どおり(あるいは期待以上?)のものをつくれるとしたら、これは本当にもう、凄い人なんだなと思う)

プルート……といえば、原作者であり、監督とともに脚本も書いているアイルランド人作家・パトリック・マッケーブの『ブッチャー・ボーイ』(同監督/1998年作品)もビデオになっているそうで、これもまたクオリティの高い作品だという評判だけれど、ついでに公開されないだろうか……。というか、パット・マッケーブの本自体、(どの作品でもいいけど)邦訳出版されないのか?

(華流なんとか……として)六本木でやっている『エンター・ザ・フェニックス』は、中国に行ったときにVCDを買ってきた映画だけれど(香港映画なのに、大陸で買うからいけないんだろうが)、観客の笑い声入りの代物だった。海賊版は多いと知っていて、気をつけて気をつけて買ったつもりでも、かなり大きなちゃんとした(と思われる)店で買ったつもりでも、大陸で買ったドラマVCD以外の映画VCDや音楽CDのほとんどは海賊版だったりしているわけで、例え旅行に行っても、もう大陸では絶対に媒体は買うまいと思う。通販なら、北京から直接購入しても、海賊版だったためしはないのに……。

さて日曜日に『ココシリ』と共に見たもう1本は、『13歳の夏に僕は生まれた』というイタリア映画。金持ちのボンボンの13歳イタリア少年が、社長である父親と出かけたマリン・クルーズの船上から誤って海に落ち、溺死寸前、アフリカ、東欧、中東といった様々な国から仕事を求めてやってきた人々を山のように乗せた密航船のルーマニアの若者によって助けられる。少年は、船上や難民収容所で苛酷な生活を体験し、全く異なる環境下で生きる人々と触れ合う中で、多くの矛盾や問題を抱えながら様々な人々が生きている「世界」というものを認識し始めるという、シンプルで力強い、ある意味ビルドゥングスロマン系の物語だ。まあ少年の成長というよりも、少年の目を通して、経済的な要因から引き起こされる民族の越境が生む社会の軋轢や矛盾、機会の不平等を描き出すことが主眼だと思うけれど……。

日本語のタイトルは、ちょっとひっかかるけれども悪くないとは思う。原題は、劇中でも素晴らしいエピソードとして使用されている「生まれたからには逃げも隠れもできない」という言葉(マリア・パーチェ・オッティエーリの原作『生まれたからには逃げも隠れもできない──埋もれた民族をめぐる旅』のタイトル)である。この言葉を、映画のかなり早い段階、主人公の少年が、公衆電話の受話器の向こうに必死で叫んでいる外国人の口から異国の言葉として聴きつけ、意味もわからないまま暗記して、後の出来事の中で何度か繰り返すことになる。

たまたまその場に居合わせた少年が言葉を丸暗記してしまった理由はもちろん、公衆電話に書かれた「故障中」というイタリア語がわからず、通じもしない電話に必死に叫ぶ外国人労働者のせっぱつまった様子がよほど強いインパクトを与えたからだろうが、外国人の窮状に反して、電話が壊れていることを知ることもできない「外国人」という存在それ自体の心もとなさが、恵まれた環境にある少年の心に何らかの影を落としたから……ということもあるのではないかと自分は思う。そしてそれが、その後のストーリーのきっかけとしての意味合いを持つ。

まるでイクラの軍艦巻きのように人であふれかえっている密航船は沿岸で保護されて、人々は難民収容所に向かう。収容所の責任者は神父(←名前失念)で、非常に人間性の豊かな人物だ。彼が居室の壁の巨大な落書き文字を指さして語るエピソードは面白い。曰く、収容所で暴動が発生したときに、あちこちを壊されたりしたので修理をしたが、壁の「神父のバカヤロウ」という落書きは消さなかった。なぜならばそれは「真実だからね」と……。

宗教と福祉が結びついて機能している国は少なくないだろうし、日本だって近世以前は寺が福祉の役割を担ってきた。この映画に特別に宗教的な描写があったりするわけではないし、この映画だけがそうだというわけではないのだが、現代っ子の主人公が折にふれ祈りを捧げる姿などには、自然な文化としての宗教が生活や人生観の基底となっていると感じられるし、特にラストシーンの、ルーマニアから密入国した少女アリーナ(←オルネッラ・ムーティを思わせる野性的でセクシーな瞳の少女)と主人公の少年が「パンを分け合う」姿には、どうしようもない現実の中で、せめてできる部分で助け合って共存していこうという結論的なものと同時に、宗教的なものをも思い起こさせられた。

ただ、自分には年齢的なものか、どうしても近いところに思いが及びやすく、少年の両親の立場が最も身近だった。もし、自分の子どもの命の恩人が国家的に正当に認められない難民の少年や少女だったら、そして自分の子どもが、自分に向かって「彼らと一緒に暮らしたい」といったらどうするのか。人道的に考えたら「かくまう」べきなのかもしれないが、国内の法律や少年たちの将来、また国家間の問題までを考えたとき、法を犯しても女性たちの人生を守ろうとしたヴェラ・ドレイクのような人でもない限り、悩みは深いと思う。

映画を見ていると、ある台詞や字幕の文字をきっかけに違うことを考え始めてしまい、映画の世界から全く離れて、気がついてみるとストーリーの重要な部分を見落としていたなどということがよくある自分にも、重い内容にもかかわらず一気に見せられてしまった見事な演出に、ジョルダーナ監督の(6時間という長さに見るのをひるんだ)前作『輝ける青春』のDVDを買おうかと思い始めている。

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コメント

shitoさん、こんにちわ。ありがとうございます!

キリアン・マーフィーは個性的な美貌(強面?)を持ちつつ、出演作もぼんぼんやってきていて大活躍ですね。「レッド・アイ」でしたか、これまた犯罪者の役のあの映画は来ないのでしょうか。いずれにしてもカンヌパルムドール作品、監督賞のイニャリトウ作品(「バベル」)とともに、見る日がとても楽しみです。

そうですか、「ブッチャー・ボーイ」は傑作ですか。shitoさんがおっしゃるなら間違いないですね。本(原作)も読みたいのですが、翻訳が出ていないのですよね。映画を見てからなら、原書にも少しは歯が立つかな?

「13歳……」は堂々たる素晴らしい作品ですが、私の単純な好みだけから言うと、シニカルな視点を持っている「家の鍵」の方がほんの少し上になります。作品的には「13歳……」の方が断然パワーがあります。

今週は私の方は、嫌われ松子とプルート……(女の一生シリーズ?)と思っているのですが、どうなることやら。

こんばんわ、石公さん。お久しぶりです。
反応が遅くなってしまいましたが、ケン・ローチ監督の『The Wind That Shakes the Barley』日本公開情報、知らなかったので嬉しいです! さすがシネカノン、なのでしょうか(笑)。キリアンも好きなので、ブルート~とコレが続けて日本で観れるのは喜ばしい限りです。
『ブッチャー・ボーイ』は日本公開されると聞いてたのにビデオ落ちになって、当時がっかりした覚えがありますが傑作ですよ! 機会がありましたら是非ご覧になってみてください。

『13歳の夏に僕は生まれた』は週末観る予定で、楽しみにしています。
『嫌われ松子の一生』、下妻~の女子青春モノとは中身は違いますが、いろいろと笑いつつも沁みる映画でした。中島監督のキャンプ・センス抜群の映像が今作でも炸裂してました(笑)。是非石公さんの感想が知りたいところです。

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