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2006.05.22

これもまたファザー、サン

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岩波ホールで『家の鍵』を見る。

誕生から15年会ったことのなかった、父ジャンニと障碍を持つ息子パオロが、「出会い」、関係を築いていこう手探りをする映画だが、障碍者と家族、親になることについてなど、重いテーマを淡々と突きつけてくる。

監督はジャンニ・アメリオ。監督の過去の作品を見たことはないが、調べてみると、人間味あふれる題材をリアルに描く作風らしく、本作も「映画紹介」レベルでは「愛と涙の感動作」的雰囲気を想像したりするが、実は非常に厳しい。そこが素晴らしい。父と子がぎくしゃくしながら少しずつ信頼を深めていく、という流れに間違いはないが、だからその後はうまくいくだろう、なんてことはひとことも言っていないし、父と子の様子を暖かい視線でとらえてはいるが、不安や罪悪感などから生まれるマイナスの感情も明確に描かれている。

特にそのマイナスの現実を、年輪を重ね洗いざらしたような美しさで語るのが、パオロの入院するベルリンの病院で出会う、障碍を持った女性ナディン(アッラ・ファエロヴィック)の母ニコール(シャーロット・ランプリング)である。

ニコールは、主人公の少年の父ジャンニと病院の休憩室で初めて出会うシーンから、障碍を持った子どもの面倒を見るのは女親であることが多く、男親は逃げてしまうという「現実」を語る。20年の長きにわたって娘のためだけに生きてきた彼女の、障碍を持っている家族に対する心構え、そして向き合わざるを得ない「母として人間として望ましくない」自己を表現する言葉は、日々の生活の中から出てきたはずのものなのに、抑制された台詞なのに、とても劇的だ。

「障碍者の家族」のベテラン、ニコールの落ち着きとは反対に、ジャンニはなかなか息子との間合いが計れない。それは当然だ、親子とはいえそれまでまったく会ったこともなかったのだから。そんな揺れる父親像を見事に演じているのが、ガエル・ガルシア・ベルナルを縦に伸ばしたような、美しいキム・ロッシ=スチュアートである。

「なついてくれた」と思ったら、黙っていなくなってしまったり、病室から追い出されたり、「ジャンニ」と紙に名前を書いてくれたと思ったら、家(それまで育ててくれたローマの家族の家)に帰ると言い出したり、ジャンニと息子パオロとの関係は、血がつながっているからといってそう簡単にいくものではない。

パオロを演じているアンドレア・ロッシの、ゆったりとしたペースで吐き出される詩のような言葉の1つ1つが感動的なのだが、見ている方は、この少年が、いきなり「父親」を名乗って現れた男を本当に信用するのか、愛するようになるのか、ジャンニが父親らしくしようとすればするほど、パオロが子供らしい顔を見せれば見せるほど、心配とともに醒めた目になっていく。

ラストシーンは、たとえ親子でも、守る者と守られる者であっても、人間関係は対等であり、人は(程度の差こそあれ)互いにもたれあって生きていることを教えてくれる。生まれたばかりの子供を置き去りにした罪悪感もあり、障碍を持つ家族への接し方の難しさもあり、パオロの父親として生きる覚悟を決めるまでに時間のかかったジャンニと息子パオロは、しかしむしろ父親と息子としてではなく、どちらがどちらを保護するということではなく、一個の人間対人間として互いに弱みをさらけだし慈しみながら、徐々に絆を深めていくのだろう。そんなことを考えさせてくれる終わり方である。

イタリア映画で、主人公たちはイタリアに住みイタリア語で話すが、舞台であるヨーロッパの面白いところは、行く病院がベルリンにあり、そこに行けば当然使われている言葉はほとんどドイツ語で、入院患者の1人であるナディンと母ニコールはリヨンから来ているフランス人。後半、ジャンニとパオロが車で出かけるのは、ノルウェー。異なる国、異なる民族、異なる言語が同居するヨーロッパだからこそ、個の重さとコミュニケーションの重さが説得力を持つ。

重たい内容でも、監督の本当に見事な手さばきと、パオロ(アンドレア・ロッシ)の可愛さと、ジャンニ(キム・ロッシ=スチュアート)の美形っぷりと、ニコール(シャーロット・ランプリング)の存在感と美しさによって(かどうかは知らないが)、イタリアでは大ヒットしたのだそうだ。

いや、ソル・ギョングとムン・ソリの絵柄(←失礼か?)で大変な評価を受けた『オアシス』の作品としての力は、さらにさらにすごいものだったのだなと、キム・ロッシ=スチュアートとシャーロット・ランプリングが余りにきれいだったので、まったく違う内容なのに思わず比べてしまったバカである。

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