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2006.04.27

新しい台湾の文学「げっし」発刊

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ついに今月、国書刊行会から「新しい台湾の文学」シリーズとして、白先勇の『[薛/子]子(げっし)』の発行が決定した。amazonによれば発売予定日は4月28日→amzon.co.jp

リンクした国書刊行会(今月の新刊ページ)の本の紹介には「戒厳令下の台北新公園に集まる寄る辺なき若者達の群像に、父と子の葛藤と台湾の歴史とを描き込んだ傑作長篇。戦後中国語文学における最重要作家の代表作」と書かれている。

(もちろん、この本を心待ちにしてきた、読書家や研究者など「まっとう」な方々もたくさんいらっしゃるだろうが)、ヤオイおばさん系中華エンタテイメントファンを中心に、読みようもなく中国語発音を真似て「ニエズ」と呼ばれてきたこの、日本人にとっては非常に馴染みの薄い漢字がタイトルに使用されている小説の邦訳版の題名は、当初予定の「罪の子」でもなく、「げっし」という本来の日本語音読みの名前に決まり、これからはこの呼び名で世間に定着していくことだろうと思う。

表紙には、「在我[イ門]的王国裏、只有黒夜、没有白天。」というあのフレーズも添えられており、反射的に郭老こと金士傑さんのナレーションの声が浮かんでくる。

右サイドバーの本のところにも書いたが、BBMのことを考えるとき、ずっとニエズ、いや「げっし」の父子関係のことを考えずにはいられなかった。イニス・デルマーとジャック・ツイストのそれぞれの父子関係は、アメリカ的な厳格でゆるがぬ父親像というのがあるのだろう、相当厳しいものだった。それは、ワイオミングの風土にも似た厳しさである。

『[薛/子]子(げっし)』においては、ちょうど龍子(王夔龍)と父との関係は、イニスやジャックと父との関係に近いものがあると思う。しかし、呉敏のようなほろ苦い父子関係もあり、李青のような激しい葛藤の末に、いくらか光が見え始めるような関係もある。

プルーの『ブロークバック・マウンテン』は、集英社文庫の訳者あとがきにあったように、「「自分で解決する」というアメリカ的マッチョ主義を棄てることもできず、結局は自分の殻に閉じ込もっていくしかない」イニスの人生を描きながら、そんなイニスをつくりあげたものが何なのかを逆照射する。

一方『[薛/子]子(げっし)』の舞台である台北の風土は、ワイオミングとは全く違う。その湿度同様に、描かれる人々の情も濃い。父と子の葛藤という部分ばかりに目が行っていたが、考えればこの小説は台北の1つのゲイ・コミュニティを描いたもので、このコミュニティの中においても、いわば父子のような、血縁の父子の間で果たしえなかった細やかな情感を伴った関係が成立している。翻訳者である陳正醍氏の論文によれば、(李青と少年が「忠孝西路」を歩んでいくという)小説のラストシーンも非常に意図的で前向きなものだと言う。

『[薛/子]子(げっし)』は、プルーの小説とは異なるテーマを持つ。作風もストーリーも全く似たところはないし、長編小説であることも大きな差異である。だから、描かれる「父親と息子」も全く違うのか、それとも普遍(不変)なのか。そんなこんなも日本語でじっくり読める。嬉しい。

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コメント

まめまるさん、はじめまして。コメントをありがとうございます。

>本のテーマはともかく、読み物としてとても面白い思いましたよ。

おお、白先勇を読み物として読んでしまうというのは、最高にぜいたくな楽しみ方ですね。すばらしい。

翻訳者の方も、だいぶ長い間この本の翻訳と研究を手がけられてきたようで、今回の本の出版前にも、お勤めになっている大学から出ている紀要の中に、「[薛/子]子(げっし)」に関する小さな論文が収録されています。ゆえに(と言っていいかどうかはわかりませんか)、訳文は信頼のおけるものだと思います。

ドラマ版は、この翻訳本を読んでいれば、映像と中文字幕だけでかなり理解できます。違いもたくさんありますが……。字幕がわからなくても、説得力のあり、暗くて湿度が高くて重くて、しかし青春の美しさの感じられる、良い作品です。

(今、昼休みなので)あとで調べてみようと思いますが、台湾版なら、たぶん日本からでも、今もまだ通販や中華エンタテイメントを扱っている店などで購入できると思うのですが……。

国内で発売されるようなことがあるかどうかは、出演俳優のいずれかが、日本で大きな人気が出るかどうかにかかっているんじゃないかという気がしますが、「タイミング」というのもあるのでしょうね。

あっという間に読んでしまいました。本のテーマはともかく、読み物としてとても面白い思いましたよ。翻訳もとてもいいと思いました。原文が分かる訳ではないのですが、テンポよく、しかも今風に訳してあると感じたのです(単語表現とか)。ドラマは見ていないのですが、日本語訳のついたものをぜひ見てみたいと思いました。だれかDVDの発売元に働きかけてください!!!

蓮さん、おはようございます。

>このまま、読み終えてしまうのが勿体なく思いました。

私も今まだまだ読んでいますが、蓮さんがおっしゃるとおりの思いをしております。

エピソードごとの回想という形で複雑に時間軸が移動しながら進む小説ならではの様式の美しさと、未熟どころか皆無に近いドラマ版の中文字幕読解能力ではわかり得なかった物語の詳細が明白になるのが嬉しくて、少しずつ読み進むたびに(良い意味で)うなっています。

げっしは、それまで長編のなかった白先勇の唯一の長編として代表作と言われますが、代表作どころか、異色の題材にして堂々たる傑作です(って、巨匠の作品を、私が今さら評価するような必要はまったくないのですが……)。

公視ドラマについては、今読んだところまででは、阿青母の最期の暮らしぶりあたり、非常に丁寧に映像化されているなと思いました。

>小偉の眼差しと「在我イ門的王国裏、只有黒夜、没有白天。」が頭に浮かんできてしまいます。

范植偉の李青をはじめ、公視ドラマの出来には白先勇も喜んでいたようで、ドラマ放映前の数々のキャンペーンイベントに自ら参加していたりもしました。何人も登場する若者たちの美しさと、何人も登場するじいさん&大人(多くの名優たち!)の熟練の芝居が、あのドラマを見応えのあるものにしていますもんね。

先ほど読み終えました。
このまま、読み終えてしまうのが勿体なく思いました。
私はTVの脚本・配役に惹かれたのですが、原作を読んでまた新たな視点からこの作品を見る事が出来たと思います。
また読み返すでしょうし、DVDも見ると思います。
今も小偉の眼差しと「在我イ門的王国裏、只有黒夜、没有白天。」が頭に浮かんできてしまいます。

蓮さん、初めまして。書き込んでいただきありがとうございます。

平積み、良いですね。出版直後ぐらいは平積みされないと悲しいですから……。しかしあの厚さは、持ち歩くのには大変です。E・セジウィックあたりなどよりはましですが……。

中国語が、いかにコンパクトで文字の1つ1つに多くの意味を含んだ言葉か、日本語があれだけの分量になることでよくわかりますね。

また気が向かれましたら、本の感想などお聞かせいただくと有難いです。

私はまた別の本にも手を出してしまい、今違う本3冊(げっし含む)三つ巴になっているので、読み終えるのにはしばらく時間がかかりそうです。

藍空さんのとこらから伺いました。
私も都内の本屋さんで平置きされてるのを見つけて購入いたしました。
日本語で読めるのは本当にありがたいです。

@ゆうこさん、こんばんわ。コメントありがとうございます。

そうですか、発刊の「噂」は出ていたのですか? 自分はこんな性格なもので、ネット上の知り合いがほとんどおらず、ひたすら自分で調べ出すのみでして……(笑)。

当然、SNS系も出入りは不能。mixiでどこかからリンクされていることがわかったとしても、どんなふうに「使われているか」わからず。……まあ、興味はないのでどうでもいいのですが……。

卒論、がんばってくださいませ。

お久しぶりです。まだ大学生(通信)
@ゆうこです。ロムってばかりでした。

ニエズ情報 知っていたのですが
噂レベルで裏がとれず やっとサイトで確認して
書き込もうとしたら・・・・・・・。

ありがとうございます。
さすが!石公さま。(笑)

私の卒論 頑張ろうと思い直しております。
とかいいながら王力宏の応援や、そのために
犠牲にしてきたことの処理などで、精一杯ですが。

フェイユイさん
こんどゆっくりブログお邪魔しますね。

フェイユイさん、いつもフェイユイさんのところでご丁寧に紹介いただいてありがとうございます。

私自身は、この本が出版予定となっていることを知ってから3年近く、国書刊行会のサイトにほとんど毎日に近いペースでアクセスしてきました(汗)。「新しい台湾の文学」シリーズは「自伝の小説」「寒夜」となかなか良いペースで発行されてきたので、「げっし」も今年は絶対に発行されるんじゃないか……などという予感を持っておりました。本当に嬉しいです。

27日の夜に都内の大型書店で購入してきたのですが、「げっし」はもう、店内で「立ち読み」(今は座って読む椅子が置かれているので実際には座り読み)している人もいて、やはり知っている人は知っている、待っていた人は待っていたんだなあと感慨深かったです。

毎度のことなのですが、また石公さんの記事で「ニエズ(げっし、ですね)」の発行を知りました。

とうとう日本語訳で読めるのですね。私が「ニエズ」のことでこちらに初めて伺ったのがいつのことだったか(笑)遠い昔のような気がします。
その時はかの人の名前・ロンズと名乗っておりましたし(笑)

長い時間を待つだけの価値はあるのではないかと思っています。楽しみですね。

早速、うちでも紹介しました。ありがとうございます。


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