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2005.11.21

色とりどり

20日。東京フィルメックス2日目はすべて違う毛色の映画で、見応え抜群の1日。どの作品も最初は平凡な印象なのに、見ているうちに「何だかわからないが、今、自分はすごいものを見ている!」と興奮した。 ん? それは映画祭レートだよって?

『思春の泉』。中川信夫監督。1953年作品。こんな映画である(←いいかげんにしろ)。原作は石坂洋次郎の『草を刈る娘』で、1961年には吉永小百合と浜田光夫でも映画化されたという(いや、吉永小百合では都会的過ぎるでしょう、これは)。文学の香り高いラブコメディ……というより嫁取り話の喜劇。見終わるや、顔も心もスーパーにこにこ状態になってしまう大変気持ち良い作品で、単純な話なので『私刑(リンチ)』のようなトンデモな部分は残念ながらない。お目当ての左幸子は撮影時には22~23歳のはずだが、見事に18歳の快活な「生娘」を演じている。一方、相手役の宇津井健(やはり当時21~22歳のはず)は、范植偉ファン必見と言えるぐらい(下手さまで(?))小偉を思い起こさせられて楽しかった。上目遣いの表情やら、髪の硬そうなところやら、1人で立っているだけで絵になってしまうあたりやら、今ひとつはっきりしない台詞やら……。ただし宇津井健の方が大柄な感じだ。彼らの縁組の仕掛け人である2人の「おばあ」たちや、騒動をしずめ映画を締めくくる村の駐在さんや、物売りの男や、村唯一の芸者さんといった登場人物がみな、人情に溢れ良い味を出している。劇中何度かモヨ子(左幸子)が語る人生観が、若い女性のそれとしては今では考えられないもので、それはそれは新鮮で興味深かった。彼女の夢は、結婚して、一生懸命働いて、たくさん子どもを産んで、身体の中の子種を全て産み出して、からからっとさっぱりした年寄りになったら、縁側で煙草をやり、どぶろくなども飲んで楽しく過ごすというもの。煙草は年寄りになるまでは喫わないという。「なんぼでも働く」という台詞が何度かでてくる。彼らにとってはきっと、「働いて金を貯めること」ではなく「一生懸命働くこと」それ自体が、人として価値あることであり、生きる意味でもあるのだろう。自分の祖父母や父母の世代の多くが持っていた価値観だ。ところが、相手役の時造(宇津井健)は違う。少し「目覚めた」人で、子どもをたくさん持つよりは、人数を絞って「丁寧に」育てることの方が大切だと考えているし、農業にしても「ただ働いてただつくる」のではなく、いろいろな農産物をつくり「経営」ということを考えるべきだと思っている。2人が夢を語り合うシーンは、きっと原作にあるに違いない文学的な台詞が飛び出して面白い。古典的な田舎の風習、生活、人々の考え方は、まだ少数派である時造の考えるような方向に徐々に転換していくのだろう。それが幸せなのか不幸せなのかはわからないが……。あっけらかんとした心温まる喜劇のベースに、そんな大きな視点の見える作品だ。ラストシーンで、モヨ子が時造からもらった貴金属製のライターを愛しそうに持っている。村の者はほかには誰も持っていないそのライターは、とにかくやってくるだろう新しい時代の始まり象徴しているかのようだった。

『SPL<殺破狼>』。葉偉信(ウィルソン・イップ)監督。香港映画。2005年作品。監督のメッセージの中の「男の映画です」というのに最初から大変引っかかったが、本当に素晴らしいそして古臭い「男」の映画だった。サモ・ハンも、ドニー・イエンも、サイモン・ヤムも、まあ色っぽいこと、色っぽいこと。格闘シーンも、(自分にとってかつてないことだが)身を乗り出して見るほど見応えのあるもので、というか……そこだけだよ、見どころは。で、監督曰く「父の日に考えた」映画だというのが、成り立ちからして既にうさん臭い。妻は家で待つだけ。子どもは電話で「パパ帰ってきて」と言うだけ。男は「パパは仕事で帰れないんだ」と言うだけ。これが2005年の映画か? 男の美学? 男の友情? 笑わせるなよ、と。半端な考えで「家族」を出すぐらいなら、いっそ一切出さなきゃ『シルミド』になれたのに(笑)。こんなストーリー、今つくる意味がさっぱりわかりません(怒)。……と言いつつ、ラストの2つのドニー・イエンの格闘シーン(サモ・ハンの部下の刃物男との格闘&サモ・ハンとの格闘)と、サイモン・ヤムがいぢめられて顔をゆがめる場面を見るためだったら、何度でも見る見るぅ(←バカ)。

『マジシャンズ』。ソン・イルゴン監督。韓国映画。2005年作品。 95分ワンカットで撮影というのが最も大きな話題の「命日」映画。「マジシャンズ・カフェ」だったか、元バンドのドラマーが雪深い山中でやっている店に、大晦日の晩に元メンバーたちが集まり、3年前の同じ日に投身自殺したメンバーのギタリストの女性を悼む話で、彼女の死以来ぎくしゃくしている人間関係、沈みがちな日々、癒えない傷を語りながら、少しずつ自分の人生を取り戻していくという、前回の『スパイダー・フォレスト/懺悔』とは違うタイプの映画である。結果的に外へ向かっていくか、内へ向かっていくかという違いだけで、人の心の中を掘り進んでいくということや、死というものが大きな影を落としているという意味では、やはり同じテーマであるとも言えるかもしれない。隣の席で見ていた知らないお兄さんが、その隣の連れのお兄さんに「演劇的だ」と語っていたが、カットなしに台詞で組み立てていく芝居なだけに、当然舞台を見ているような感じを受ける。美術や色彩の美しさは、さすがソン・イルゴン作品だ。監督の言うとおり、僧侶が出てきてからの会話の間(ま)など、非常にユーモラスで笑わせていただいた。早くも公開が決まっているそうだが、後味もいいし、ロマンチックだし、これは(ソン・イルゴン作品にしては)意外といけるんじゃないかと思う。小づくりな話が大好きなこともあるが、命日で僧侶でしかも軽妙さを持っている映画とあらば、自分的にはお気に入り登録必至。アイディアと、撮影における多大な努力と熱意と、若いのに渋い俳優の演技の魅力の勝利と言おうか……。

『あひるを背負った少年』。應亮(イン・リャン)監督。中国映画。2005年作品。デジタルビデオ撮影の作品なので、見たとたんにデジタルビデオ撮影とわかる、ぼやけた画面。特に美しい景色が写るわけでもない。「結末」もこれでは問題があるだろう。でも、こういうプリミティブなパワーを感じさせる作品に出会い、頭を殴られたような衝撃を受けるのが、フィルメックスという映画祭の面白さ。いや、びっくりしました(フィルメックスのカタログどおりの感想で恥ずかしいが、そうとしか言いようがないのだ!)。四川省の農村の少年が背にあひるを詰めたかごを背負って、都会に出稼ぎに出かけた父親を探しにいくという話なのだが、もう、そんな『山の郵便配達』的絵葉書映画とは全く違う、「作者」の強い気持ちを感じさせる映画だった。ジャ・ジャンクーでもまだまだ綺麗。(続きはまた後で訂正更新します……すみません)

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コメント

diabloさん、たくさん書いていただいて嬉しいです。張り合いがあるってものです(笑)。

「マジシャンズ」はロマンチックですよ~。青臭いしね。青臭さと死の匂い。いいじゃないですかぁ……。「父ちゃん、今、俺は猛烈にすごいものを見ている」と、地味な作品なので、途中から何だかじわじわと感動します。内容もそうなんですが、作品自体に。

あ、コメントだからって安心して馬鹿なことを書いていると、コメントも立派に検索にひっかかるんで恥ずかしい思いをする、というのはわかっているんですが、ついつい気がゆるみます。お許しを。

「SPL」は、サモ・ハンの紫スーツに尽きます(←尽きるのか?)。長恨歌の胡軍のイエローの蝶ネクタイぐらい印象的でした(笑)。

石公さん、またdiabloです。(笑)

>非常にユーモラスで笑わせていただいた。早くも公開が決まっているそうだが、
>後味もいいし、ロマンチックだし、これは(ソン・イルゴン作品にしては)意外
>といけるんじゃないかと思う。

いや~嬉しいです。実は体調不良で重い感じの作品かと敬遠して「SPL」1本で
帰宅してしまっていたので、ちょっと後悔してたのですが、一般公開が決まってる
とは嬉しい情報。兎も角、心身共に調子が悪いと観る意欲が一気に下降線を下る
ヘタレな者なもんで・・・

>これが2005年の映画か? 男の美学? 男の友情? 笑わせるなよ、と。

そして「SPL」、私の言いたい事を全て言って頂き勝手に感謝感激!
そ~なんですよネ~
基本、色っぽいyamyamやドニー兄達には目が無い(目が曇っている)私故、投票カード
を折り目つけないで出す位の勢いだった鑑賞前。

>こんなストーリー、今つくる意味がさっぱりわかりません(怒)。……と言いつつ、
>ラストの2つのドニー・イエンの格闘シーン(サモ・ハンの部下の刃物男との
>格闘&サモ・ハンとの格闘)と、サイモン・ヤムがいぢめられて顔をゆがめる場面を
>見るためだったら、何度でも見る見るぅ(←バカ)。

全く同じで御座います。(爆)
今回、動ける方々が比較的多く出演されていた為か、ワイヤーが少なく目に優しく
尚且つ迫力有りました。

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