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2005.11.20

フィルメックスに追いつかれる

TIFF関連で見た映画のたった1本の感想を書きかけているうちに、東京フィルメックスが始まった。フィルメックスは作品セレクトの重点が芸術性・作家性の高さにあるため、見た作品が自分に合えば猛烈に「はまる」し、逆に自分には合わなくて「は?」としか思えない作品にも出会う。それでもとにかく、びっくりさせられる作品が多く刺激的な映画祭である。

ということで、今回も雑感で終わってしまいそうな情けない予感がするが、感想を一節。

『私刑(リンチ)』。中川信夫監督。1949年作品。こんな映画である(←手抜きだよ)。今ひとつ穴のあるヘンな話で、うまい俳優さんも大してうまくない俳優さんも出ていて、チープな部分もあるのに、何でか面白く、何でか(映画的に)かっこよく、何でか安っぽいテレビドラマ的な感じが全くしない。モノクロで、台詞すら聞き取りづらい古いフィルムだということが、かえって映画の印象を高めている気もするが、このあたりが日本映画の黄金期の実力の片鱗なのかもしれない。進藤英太郎の極道役の大物っぷりは、大柄なイ・デヨンさんのようで素晴らしかった。桑子こと久我美子の、歌う場面をはじめ数々のけれんに溢れたお嬢様演技は決して心地良く魅せてくれるほど上手いわけではないのに、見事に後半の華になっていた。最も「すごい」と思ったのは、冒頭に出てくる戦前のヤクザの大宴会シーンの宴会場である。広く天井の高い、豪華な日本式の大広間なのだ。主演の嵐寛寿郎の美しさとオトボケっぷりも見物だ。牢の中央に正座する受刑中の暗い姿ばかりが印象的な主役なのに、どうもキャラ的にもピントがぼけているというか、勘違い野郎というか、その明るさが、駆け落ちした妻の苦労にやつれた姿などどこ吹く風、作品に不思議なテイストをもたらしていると思う。そんなおちゃめな映画だが、本来犯罪物なだけに部分部分で大変に緊迫した描写もあり、(先ほどの久我美子の)歌あり、貧窮により母物的涙をさそう部分あり、ヤクザ映画でもあるわけで、いろいろ盛りだくさんです(笑)。

『スリー・タイムズ』。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督。台湾映画。2005年作品。オープニングを東京国際フォーラムでやったのは初めてか(?)。素晴らしい会場で、これから先、他の作品も国際フォーラムで見られたらいいなと思った。しかも、大画面で侯孝賢は嬉しい。1960年代、1910年代、現代の3つの時代の3つのラブストーリーのオムニパスで、1話目と2話目の音楽と映像の美しさに酔いしれていたら、3話目で「今」の映像を見た途端に睡魔が襲い、ところどころ意識がとぎれ、実は3話目が最も複雑なストーリーがありそうな内容だったのだが、内容を解くことができずに終わってしまった。確かエンドクレジットの中に、唯一3話目の「青春夢」について、何か故事を脚色したというような表記があった気がするのだ。登場人物が「織香みたいに死んじゃうから」と言っていた台詞は、そのあたりから来ているのだろうか。Q&Aで聞きたかったなあ。2話目に何度も出てきた、中国式の屋敷で、使用人がランプに灯をともすシーンなどはさすがで、もう本当に見惚れる。音楽は全編を通じて良く、サウンドトラックを買いたいと思った。

『焼けた劇場の芸術家たち』。リティ・パニュ監督。フランス映画。2005年作品。フランス映画だが、カンボジアのプノンペンが舞台のドキュメンタリーのようなフィクションである(本当にフィクションか?)。内容はタイトルどおりで、火事で焼け落ちた劇場の俳優たちを追っている。でも、タイトルからイメージするような「芸術家」の話ではなく、いまだポル・ポト政権による大量虐殺の傷の癒えない人々の話であり、その「職」を失った人の子供たちが、アジアの国々ではすっかり有名な「ゴミの山からゴミを拾う」危険な作業で糧を得るような生活を強いられていたり、彼らの心を映したかのような廃墟が、「呆然と」新しいビルがどんどん建てられつつある都市の中央に横たわっていたりする、カンボジアの今を切り取った作品だ。カンボジアの映画は初めて見たと思う。まだまだあのポル・ポト時代は人々の心身に有形無形の傷を残している上、その時代を知らない若い世代とでは断絶があるという。まだ終わってなどいなかったことに衝撃を受けた。焼跡の劇場に集う(というか、住んでいる)役者たちは、出し物の1つである影絵をやってみたり、芝居のさわりを演じてみたり、また昼間であればつねに鉄アレイを上下してトレーニングをしたりしているが、ついぞ劇場が再興されることはない。毎日毎日「菜っ葉」しか入っていないスープを飲み、ときには劇場跡に住みつくコウモリを獲って食べたりする。コウモリを集めて、食べるためにさばくシーンが大写しになる。「ここはやっぱり「から揚げ」だよな」と思っていたら、次の場面は油がぱちぱちとはねる「から揚げ」シーンだった。やはり肉や魚は「から揚げ」である。

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コメント

diabloさん、コメントをありがとうございます。

「スリー・タイムズ」はなかなか良かったですよね。会場も空気が良い感じで(って、2階席・3階席があるから天井が高いのは当然なんですが)……。

いや、質問は難しいですよ。あがりますし。「私は監督の作品は全て見ています」調の人、よくいますが(今回の「スリー・タイムズ」でそれを言われていた方は良い質問をされていたと思いますが)、「ふーーん、ただの自慢じゃん」としか思えなかったりするヒネクレ者の私です。基本的に見た直後は、「感想」は言えても、疑問点はすぐには浮かばなかったりするので、なかなか挙手できません。でももし質問があったなら、迷わず最初に手を上げると、良く指してもらえるようですね。

当初の企画は、3つの話を3人の監督で撮る予定だったという話を監督がされたときに、「1人で撮ってくれてよかったです!」とフィルメックスのディレクターの方がすかさずおっしゃったのには笑いがこぼれました。私も同意ですが。

でもやはり、「台湾映画」は眠く、ホウ・シャオシェンもまた眠いです(笑)。

こんにちは、石公さん

結局、土曜日は「スリー・タイムズ」だけ鑑賞しました。

>3話目で「今」の映像を見た途端に睡魔が襲い、ところどころ意識がとぎれ、
>実は3話目が最も複雑なストーリーがありそうな内容だったのだが、
>内容を解くことができずに終わってしまった。

大人の読み方で、単に3話目は要らん~!騒いでた私とは大違い。(汗)
「ニレミアム・マンボ」を彷彿させるトーンで理解不可能に陥ってしまいました。
当然、意識が飛んでしまった箇所有りです。(苦笑)

>「織香みたいに死んじゃうから」

私もこれが気になっていたのですが、質問出来る程の度胸も無い上に
Q&Aではみな様違う事を質問されていらして、ちょっと残念。

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