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2005.08.21

少女はがさつでぶっきらぼうじゃなくっちゃ

大好きな韓国の女優ペ・ドゥナが出ているということのみを牽引力に、前作『リアリズムの宿』では、自分的にちょっともうちょっとちょっとちょっと……だった山下敦弘監督作品であるため引き気味の身体を引きずって、やっと『リンダ リンダ リンダ』を見てきた(8月14日@新宿)。

『リアリズムの宿』は、その独特の間合いはとても肌に合うのだが、若い男2人の馴れ合った(と感じられた)結末が腑に落ちず、女性の出し方ももうひとつ気に入らず、というところだった。

が、が、が、『リンダ リンダ リンダ』にはやられた。昨年の『下妻物語』がパンチの効いた胸のすく友情物語なら、『リンダ……』には何のドラマもない高校生の時間が焼きついている。そして『パッチギ!』がある意味韓流への問題提起であるように、『リンダ……』もまた(監督にそんな意図はなかろうが)韓流という浮ついた「ブーム」を日常レベルで見つめ直すことのできる作品である。

ストーリーなど何もないのだ。

文化祭本番を目前に、軽音楽部の女子バンドのギタリスト萌が手を負傷。と同時にメンバーの恵と凛子がけんかをし、凛子が文化祭出演を拒否。数日後に迫ったステージはピンチに陥る。ボーカルとギターが出ないとなれば、それでも出演するなら曲目&持ち場の変更を考えざるを得ない。ベースの望とドラムの響子は今までどおりとはいえ、キーボードの恵がギターにまわり、残るボーカルを誰にするか決めることに……。

芝崎高校の構内で、3人の女子が座っている。目前のステージをどうしようか、ボーカルはどうしようかと話しながら。この空気が何とも言えずリアルで、知らず知らずのうちに自分も、かったるくて閉塞感に満ちた数10年前の学生時代に戻っている。このあたりから自分はもう「入りっぱなし」。1人が「今から目の前を通った人をボーカルにしよう」と言い出す。そしてそこに姿を現すのが、バンドとも関係なく大して交流もなさそうな、ペ・ドゥナ演じる韓国からの留学生ソン。

あとは、4人の急場しのぎバンドが連日徹夜の合宿状態で練習し、当日のステージを迎えるというだけの話。その間、多少の恋愛談などもあるが、本質的には何も起こらない。

何が良いかというと、一生懸命さとか、熱さとか、ぐわっと盛り上がっていく感じとか、そんなのが一切ないのが良い。もちろん登場人物たちは、「本番まで残り何10時間」という秒読みの時間の中で、徹夜で必死で練習している「熱い」状態ではあるのだ、たぶん。

でも映画には、そんな懸命な姿を感動的に見せるような場面はない。見せられるのは、夕飯のためにメンバー全員でスーパーに買い物に行く場面だったり、真夜中の屋上でお菓子を食べながら休憩する場面だったり、徹夜の結果机に突っ伏して爆睡しているソンの姿だったり、本番直前の練習後全員が疲れて寝過ごしてしまったりする場面である。祭りの非日常ではなく、非日常的なスクランブル状態の中でも必ずあるはずの日常的な、食べること、しゃべること、眠ること、といった「行い」が映されているのだ。

観客は、感情移入はできないかもしれないし、ドラマチックな感動は与えられないかもしれない。でも、自分も持っていたはずのあのころの「時間」を、タイムスリップしたかのごとく鮮明に思い出すだろうし、彼女たちとともにその「時間」を再び生きるはずだ。巨大なドラマツルギーの渦に巻き込まれていては気付けない、人が生きる毎日の貴さを、そこはかとなくじんわりと感じさせられるのだ。

バンドメンバーは、美形の恵を筆頭にそりゃみんな女子高生だから可愛いことこの上ないが、そのあたりの、何もしなくても人生で一番美しい時間を生きる女の子たちを、特に美しく撮ろうなどという意図が感じられないのも、この映画を気持ち良く見られる理由の1つだろう。

留年して高校に残っている軽音楽部の先輩・中島田花子が、屋上で1人マンガ喫茶をやっている。一応、文化祭だから(笑)。風の吹くコンクリートの屋上には、マンガと、クーラーボックスに入れたジュース。そこへやってくる恵と交わす会話の優しさが良い。演じている山崎優子の、ハスキーな声と、ジャージonスカートで今にもあぐらでもかきそうな自然体な雰囲気が、その場の心地良さとかすかな寂しさを感じさせて凄く良い。

ペ・ドゥナは、さすがのキャリアだ。『ほえる犬は噛まない』で大コメディを演じきり(ソンのキャラクターはこの作品のヒロインにやや近め?)、『復讐者に憐れみを』では大胆なベッド・シーンもある左翼活動家という役柄を意欲的に演じ、社会人となった学生時代の女友達4人の友情と現実を描いた『子猫をお願い』では、じっくりと繊細に若い女性OLを演じて見せてくれた彼女だ(そうそう、『リンダ リンダ リンダ』を見ているときに、まるで『子猫をお願い』の女の子たちのフラッシュバックの学生時代を見せられているような気がした。特に4人でバスに乗るシーンなどは既視感にとらわれた)。

バンドメンバー4人が1列縦隊でふらふらと野原を歩く場面がある。なぜかわからないが、先頭をペ・ドゥナが歩いているだけで、そのシーンが面白く感じられた。ほかの場面でも、彼女が、立つ、歩く、食べるという動作だけで「映画の場面」として輝き出すような気がした。そして、ひょうひょうとして飾らず、しかしパワーを感じさせる彼女の個性が、ソンというキャラクターにぴったりあっていた。

ソンは留学生として芝崎高校にいるが、まだ言葉も片言で、文化祭ではお客も少なそうな、学校側の方針で企画されたような韓国文化を紹介するコーナーを教師と2人で担当している。みんな彼女のことを知ってはいる。でも親しい友だちは小学生で、高校では何だかつまらなそうにしていたソンが、たまたまバンドのメンバーになったことで、その活発な個性を見せ始める。

映画を面白くしたのは、ペ・ドゥナの存在はもとより、ソンというキャラクターが醸し出す良い意味でのぎくしゃくとした感覚だと思う。それがなければ、ただの漫然たる「美しい時」に過ぎない。そして「面白み」というアクセントであるソンは、そんなこと以上に、バンドの少女たちの間がより本質的に結びつくために貢献したはずだ。繊細なニュアンスを感じあいながら接していく日本式の友だち付き合いの輪の中にソンが入ることで、もっと大雑把で、しかし大切なところは外さないというレベルで付き合っていく必要が生まれたのだから。

『リアリズムの宿』の(陳腐な言葉だが)予定調和の不愉快さが『リンダ リンダ リンダ』に感じられなかったのも、ソンというキャラクターが入ったことで、その日本式予定調和がくずれたからかもしれない。ソンの存在は、この映画が成功していることの大きな鍵だと思う。そりゃ、ヒロインだから当然か(笑)。


さてさて、全くの余談だが、今、自分が好きな韓国の女優さんは、チョン・ドヨン、ムン・グニョン、チョン・ジヒョン、ペ・ドゥナといったところである。多すぎですか? 単純な外見で苦手なのはキム・ハヌルで、単純な外見で好みなのはチョン・ドヨンとチュ・サンミ、そしてこの間見た『大韓民国憲法第一条』のイェ・ジウォン。イェ・ジウォンは『大韓民国……』では非常に色っぽいけれど、『アナーキスト』中で日本人歌手として艶っぽく歌う場面では、「ガエル・ガルシア・ベルナルのザハラ(のキサス・キサス・キサス)を見習え~」とやじりたくなったほど、あっさりしていた記憶が。まあ、セクシーさと爽やかさの同居しているところが彼女の魅力なので、そりゃあ仕方ない。

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コメント

優子さん、はじめまして。おはようございます。

びっくりしました~。じきじきにコメントいただきありがとうございます。中島田花子のキャラクターはかなり好きなので、おいでいただいて嬉しいです。一応、「リンダ……」の文章を書く前に、リンクのme-ismサンのサイトも拝見してました。映画奮戦記のイラスト(マンガ)が、いい感じです。

「リンダ……」は、優子さんのほかにも、ベテランから若い方まで沢山のミュージシャンが登場する映画でしたね。そんな中でも、「こいつ、何者?」と思わせる中島田花子の存在感はぴかいちかと。

ラ、ライブですか? 「父母参観ライブ」とかだったら行けるかも(笑)。いやいや、とにかく、かっこよくだら~りと頑張ってくださいませ。ずっと気にさせていただきますので。

こんにちは!
リンダリンダリンダ、中島田花子役の、山崎優子率いるバンド、me-ISMです。

ブログ、優子のこと書いてくださってありがとうございました。
あれ、かなり自然体です(笑) 素で演技?してるみたいな感じでした。

もしよかったら、HPの方にも足跡残してあげてください!

http://www.inglabel.com/me-ism.html

ライブも一度見てくれると嬉しいです。
ありがとうございました!!

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