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2005.05.26

Bitter Sweet Life

『甘い人生』初登場シーンでイ・ビョンホンが食っているのは、「ビタースイート」なコーヒーゼリーか?

キム・ジウン監督の映画は、良い意味でマンガ的だ。もう一歩足を踏み出しら、やりすぎになってしまうのではないかと思うようなデフォルメされた物語を、凝った美しさや心地よいスピード感を持った、しかも非常にセンスの良い映像で有無を言わさず見せてくれる。余韻や後味よりも、映画の時間の中で大いに酔わせ楽しませる、堂々たるエンタテイメントだ。クールだが、神のように裁かず放り出しもせず、登場人物たちに、仏のような慈しみの視線を遠くからそっと投げかける。キム・ジウン作品が、愛(恋愛)を主軸に据えないのも、好きな理由の1つである。

今回の『甘い人生』は、「(ヤクザな)ホテルマンが社長(親分)の愛人を横恋慕したことによって(親分の逆鱗に触れ)人生から転落する話」と紹介されているストーリーだが、「親分の愛人」への主人公の想いが、作品の中で重きを置かれているかというと、自分はそうは感じなかった。社長の若い愛人ヒス(シン・ミナ)への想いは「きっかけ」であり、作品をまとめあげるための鍵ではあるが、本質は「7年も仕えた、ボスの信頼あつかったこのオレ様が、なんでこんなことになっちまったんだよ~」という主人公の不条理感に満ちた絶叫、ただもうひたすらそれだけをアクションに乗せた、何も考えることなどないシンプルなストーリーである。

素晴らしいテンポの後半の復讐劇は、「次はこうなるに違いない」と思うとおりの動きを見せるにもかかわらず、決して飽きることなく、画面に釘付けとなる。復讐と言っても、『オールド・ボーイ』のような人間の負のパワーのすさまじさを見せるような深みはない。人間とは何かとか、人生とは何かとか、そんなものを描いているわけではないので、主人公の心理や状況への説得力など不要なのだ。理不尽さを抱えて怒るだけの薄っぺらい主人公の、心のままに暴れずにいられませんでした、という暴力劇。主人公は、あくまでもアクションそのものであって、イ・ビョンホンではない。血の色を散りばめたシャープで鮮やかなモノトーンの色彩。スマートに暴走する爽快な画面。映画の最初と終りに、師と弟子との風に揺れる木々と心についての禅問答のような対話が挿入されているが、別にそんな「様式」がなくも、映画自体は既に十分かっこいい。

韓国ドラマは見ないが、『バンジージャンプする』を見て以来、イ・ビョンホンは好きだ。だが、この映画の彼には、全く存在感がない。映画俳優としての素質を疑うほどに、何のオーラも感じなかった。脇を固めるキム・レハもファン・ジョンミンもシン・ミナも手堅く良い雰囲気を出しているし、カン社長(キム・ヨンチョル)など、仏像のごとき、むしゃぶりつきたくなるぐらい色っぽい悪オヤジっぷりを見せてくれているのに、イ・ビョンホンはマネキン人形のようだ。

ひねりの効いたストーリーでもなく、主人公の過去も敢えて全く描かれない。そんなとっかかりなき物語に命を吹き込むのは、古典的な方法なら、哀愁を帯びた背中とか、孤独の中で狂気をひらめかせる瞳だとか、唯一無二の主役の魅力のはずだ。『バンジージャンプする』の教師インウ(イヌ)が学校を去っていくロングショットからは、ひしひしとその悲哀が伝わってきたし、『JSA』で物思いにふける兵士の横顔はリアルに心に焼き付いている。『純愛中毒』のあのリアリティは、もしかしたらイ・オルさんの力によるところが大きかったのかも知れない、などと疑い出すほど、今回のイ・ビョンホンには醸し出すものがない。

では、この『甘い人生』が、イ・ビョンホンゆえに何だかこざっぱりとしてしまっているからといって、魅力がないかというと、そんなことは全くない。かえって、哀愁も苦悩も感じさせない主人公の存在感の薄さが、映画そのものの美しさを強調しているような気がして、妙な新しさを感じる。ほら、主人公は「アクション」だし……。自分の存在感すら消してみせたという意味では、新しい「捨て身のヒーロー」とでも言うべきなんだろうか。もしや、監督はそこを狙ったのか。

ただし、ラストのカン社長とのラブシーンもとい対決シーン、ここだけは「目を潤ませたら韓国男優一」の本領を発揮し、古い美意識を捨てきれぬ人間にもわかりやすい、ぐっと来る表情を見せてくれるビョンホンである。

香港映画『ダブルタップ』をキム・ジウン監督に撮ってもらったら、きっとすごく良いものができたんじゃないかと、ふと思ったりして……。

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